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科学っぽいの落とし穴

  • 所長のひとりごと

前回、ある事件についての指紋分析の話から始めて、
・「科学的」と「科学っぽい」の違いに注意する
・科学的な判断には「条件」が重要である
というコメントをさせていただきました。
これは医療現場、在宅医療現場でも念頭に置くべき事項だと思います。
医療現場の例として今回はPCR検査とMRI検査を挙げてみます。

PCR検査もMRI検査も機械で自動的に行なっていて、
聴診とか問診とかに比べると、かなり客観的に思えるんですが、
これも指紋と同じで検査するときの条件が悪いこともあるし、条件が悪いと人間の判断の要素が増えます。

コロナウイルスの検査で有名になったPCR検査も、唾液や鼻咽頭からの採取液がどれだけきれいにとれているか、また感染機会からどれだけ経っているかで、
検査結果をどの程度信頼できるのかが変わってきます。
PCR検査で陰性でした、大丈夫です、何て言っていても、後になって再検査したらやっぱり感染していた、というようなことはしばしばあります。

また、PCRというのは単に陽性、陰性ではありません。
Ct値というのも大事です。
「Ct値」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、これは”Threshold Cycle” の頭文字を取ったもので、日本語訳にすると「閾(しきい)値のサイクル」となります。
少し難しい言葉ですが簡単に言うと、DNAが検出されるほど十分に増幅されるために必要なPCRの回数、ということになります。
つまり、最初にあるDNAの量が多ければ、少ないPCRの回数で十分なDNAの量が増幅されるため、Ct値は低くなります。
逆に、最初のDNAの量が少なければ、十分なDNAの量が増幅されるために多くの回数のPCRが必要となるため、Ct値は高くなります。

私は一度無症状だけと、接触があったため念のために受けたPCR検査で
陽性と判定されたのですが、
その時のCt値は38でした。
ウイルスの遺伝子をおよそ2700億倍(正確には274877906944倍)に増幅させたら検出できた、いうことです。
諸外国では陰性と判断されるレベルです。
それでも仕事は休み、抗原検査を毎日のようにやりました。
結局、症状は全く出ず、抗原検査は1週間陰性が続きました。

その2週間後に今度は本当に感染してしまいました。
今度は症状も咽頭痛、咳、発熱があり、抗原検査も1週間経っても陽性が続きました。(これは半分実験のつもりで再々検査しています。そんなに頻繁な検査は必要ないと思っています。)

先のPCR検査はその結果を陽性、陰性だけで判断した場合、
感染の実態を把握できず、間違った判断と措置の元になったということです。

PCR検査というと抗原検査よりも精密で正確と考えてしまいますが、
それは「科学っぽい」だけで「科学的」というわけではない。
科学的であるためには条件をきっちりと押さえないといけないということが痛感された事例でした。

MRI検査も、例えば脳梗塞の診断に使う場合は、発症から何時間経っているか変わってきます。
発症から1時間以内だとMRIでみても正常と変わらない画像が出てくることもあります。
一度、ある患者さんが急に意識障害が出て往診したところ、
右片麻痺と構音障害があって、脳血管障害と考えて救急搬送したことがありました。
血圧が180以上、不整脈あり、SpO2 が酸素なしで86%という状態でした。

この患者さんですが、搬送した高次医療機関からは、
MRIを撮影しましたが、脳梗塞はありませんでした。
右肺炎があり、低酸素血症からの意識障害でした、と返事がきました。

え、そうだったのか、意識障害=脳血管障害ではないな、等と考えていたのですが、
3週間後その患者さんが退院するとどうみても右片麻痺と運動性失語がある。

そこでもう一度紹介して頭部MRIを撮影してもらったら、左大脳半球に亜急性期の梗塞巣が広範に認められました。

これは結局、最初に撮影したMRIが撮影時期が早すぎて梗塞をとらえてなかったわけです。
医師が診察だけで麻痺とか構音障害をみて診断するよりは、MRI検査の方が科学的で、信用できそうに思いがちですが、条件によっては、問診や診察の方が正しいこともあるわけです。

PCR、MRIのように横文字が並ぶと何か信用性が増す気がしますがそうではないいですね。
繰り返しになりますが、大事なことが2つあると思います。
1つは、「科学的」と「科学っぽい」の区別をすること
単に高価な機械を使って、情報がいっぱい取れる方法が科学的なのではありません。それは科学っぽいだけのことがあります。

もう1つは、本当の科学というのは、
条件を厳密に吟味するものだということです。
前回お話した指紋でも、PCRでもMRIでも、テストする時の条件によって解釈は違ってきます。
それと検査の結果は丁寧にみないといけない。
陽性だ、陰性だと単純に分けていたら見えるべきものが見えなくなる。

次回、科学的判断についてもう少し話を続けたいと思います。

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