ブログ

カテゴリー:

セーフティⅡを考える

  • 所長のひとりごと

今回は在宅医療業とセーフティ2というテーマで考えます。

セーフティ2というのはセーフティ1に対する言葉です。

セーフティ1は、従来からとられてきた、あるいは想定されてきた安全対策のことです。

セーフティ1とセーフティ2の定義の詳細については、「失敗ゼロからの脱却 レジリエンスエンジニアリングのすすめ(芳賀繁著)」、「レジリエント・ヘルスケア入門: 擾乱と制約下で柔軟に対応する力(中島和江編著)、そしてこの概念の提唱者であるエリック・ホルナゲル著の「レジリエンスエンジニアリング: 概念と指針」等の参考文献に譲ります。以下、往診屋流にまとめた私なりの解釈です。

 

セーフティ1の基本的な考え方は、失敗というのはいけないものだから、失敗をできるだけ避ける、というものです。

そして、失敗には必ずその原因があるのだから、その原因をなくすことを安全対策の基本としています。

インシデントレポートをたくさん集めて、これを分析して失敗の原因となりそうな作業ポイントを特定して、これを避けるようにルール化やマニュアル化を行い、従事者がこれを遵守するように教育する、といったやり方がその典型です。

セーフティ1が有効な業務の代表が工場での製作です。1つ1つの製造過程が正常に稼働することが何よりも大事で、関わる人はそれを正確に扱うことが求められます。エラーがあればその原因箇所を探して、これを除去することが安全対策の基本です。

 

これに対してセーフティ2は、成功に着目します。業務が複雑で混乱とあいまいさの中で進行しています。いろんな環境要因や条件があり、常に変化します。1人1人はミスをしていなくても、1つ1つのシステムは正常に作動していても、それでもやっぱりうまくいかないことは起きます。しかし少々うまくいかないことがあっても、全体としてはいいアウトカム(結果)が得られた。その成功を大事にしていこうとする安全対策と言えばよいかと思います。

 

医療現場は工場に比べると、複雑であいまいな要素をたくさん含んでいます。代表例は救命救急センターに複数の患者さんがほぼ同時に搬入されてきたような場合です。ここで1人1人の患者さんのケアを、工場でモノを作るように1つ1つ完全を期して行っていたら複数の患者さんを同時に助けることはできません。

在宅医療業は、VUCAです。VUCAというのは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取ったもので、物事の不確実性が高く、将来の予測が困難な状態を指す造語です。

その意味では、セーフティ1よりもセーフティ2が安全対策として適しているケースが多いと思っています。

 

私の日常業務での例を挙げます。

ある日、訪問診療予定が多数あったとします。予定時間通り回るのが難しいと考えて、医師が訪問する前に看護師が先に回ってバイタルサインをとって簡単な問診をとっていくことにしました。このことによって、医師が1つのところに滞在する時間を短縮する作戦をとりました。

ところが、ある患者宅に行くと看護師がまだ到着しておらず、医師の方が先に診察することになりました。このため、次の患者宅に行くのは予定よりも10分くらい遅れてしまいました。

というようなケースがあったとします。

 

看護師が当初の作戦通り、先に回ってくれなかったから遅れてしまった、何でそうなったんだと原因を追求して、次からは遅れることがないようにしようというのがセーフティ1のアプローチです。

ところが、先に回っていく予定だった看護師は、ある患者さんの問診中にその患者さんの下肢に発赤と熱感を発見していました。これは蜂窩織炎の可能性があると思い、患部の写真を撮影し、医師に報告しました。結果として、感染を早期に発見してその患者さんが重症になることを防ぐことができました。

といった一日だったとします。

これなどは、患者さんの訪問時間が少し遅れてしまうというマイナスはあったとしても、全体としてみれば大きなプラスがあった、結果として良かったということにはならないでしょうか?セーフティ2の考えからみれば成功例となります。

 

もちろん、在宅医療業でもセーフティ1の考え方が求められる場面もあります。外科的な手技では特にエラーの原因をなくしていくアプローチが求められます。中心静脈カテーテルを挿入するような場合がそうです。1つ1つの手順をマニュアル通りに守ることが感染を防ぎ、事故を防ぎます。

 

大事なのは両者の使い分けだと考えています。

 

Contact

お問い合わせ

緊急時には、夜間休日も対応しております。
気になること・ご不明なことなど、お気軽にご相談ください。

ページトップへ戻る