怒りは往診の敵 その2 在宅医療現場特有のヒューマンエラー
- 所長のひとりごと
前回、往診や在宅医療の現場に怒りが及ぼす悪影響について、5点を挙げました。
その中の1つ目で、怒りはミスの元、と述べましたが、今日は、
「往診や在宅医療現場におけるヒューマンエラーと怒り」というテーマでお話します。
ミスとヒューマンエラー、ほぼ同じ意味に使われますが、
ここでは、「ヒューマンエラー」を使います。
ヒューマンエラーは、人間が原因となって本来やれるべきタスクがうまくできないこと、という意味で使います。
どんな仕事もエラーはつきものです。
航空業界、建設現場、交通事故予防等の分野では早くからこのヒューマンエラーの原因と対策が研究され、多数出版物もあります。
医療業界も、近年このヒューマンエラーの分析が活発になってきていますが、
私はここで、往診や在宅医療現場特有のエラーと原因について考えます。
1 往診、在宅医療現場特有のヒューマンエラー
1)運転等の移動に関係するエラー
他の医療現場ではあまりないエラーとして、運転等の移動に関係するエラーがあります。
往診や在宅医療の仕事は、患者さん宅から患者さん宅への移動を伴います。
誤った場所に行ってしまう、車をどこかで擦ってしまう、駐車場が見つからなくて時間に遅れてしまう、
等のエラーは他の医療現場ではないことです。
2)連絡、伝達に関係するエラー
往診や在宅医療現場というのは、頻繁に連絡や伝達をします。その内容は多岐にわたります。
診療内容の話から金銭の話、個人情報まで多種類の情報を扱います。
しかも連絡、伝達を行う相手が多職種であったり、1つの職場だけでなく多くの関係機関と連絡しないといけないことが多いです。
3)準備に関係するエラー
これも、往診や在宅医療現場で多い問題です。病院・診療所内で仕事をしていると必要なものはその建物の中にあることがほとんどです。ところが、在宅医療だと準備して患者さん宅に持っていかないといけません。
薬剤等の準備を忘れたり、少し間違ったりするとたちまち仕事に支障をきたしますし、その影響は大きいです。
4)事務処理に関係するエラー
在宅医療だと医師や看護師等の職種であっても、お金を預かったり文書を預かったりせざるを得ないことはよくあります。慣れないことをしてエラーを起こすことがあります。
また、自分の職場内でなく、患者宅で事務処理を行うので1つのエラーをすぐにその場で修正することができないことがあります。
2 往診、在宅医療現場で、エラーが起きやすい原因
1)時間的制約
次々に患者さん宅から患者さん宅に移動していかなかればなりません。
しかも、予定時刻を決めて患者さんに伝えていることが多いです。
外来や入院治療でももちろん時間的な制約はありますが、在宅医療は特に時間のプレッシャーがかかる現場です。
2)場所の制約
患者さん宅で仕事をするというのは、それだけで心理的に圧迫されるものです。
ちょっと引き戻ってやり直すということもできません。患者さんの目も誤魔化せません。
3)多様性
往診や在宅医療の現場は多様性に富んでいます。診療する場所がさまざまですし、患者さんも自分の家だと病院や診療所にきている時と違って、いろんなことを言ってくることがあります。それらに対応しなければなりません。
「トヨタの片付け」という本があります。車の会社トヨタが行っているノウハウで、ものを置く場所を一定にしたり、目で見えやすい表示にしたりして作業場を整理すれば事故も少なく、効率も良いということを示しているのですが、在宅医療の現場だと、それがそう簡単でないのは想像がつくと思います。
4)マルチタスク
在宅医療をやっていると、1つ1つ仕事が終わっていくということは少ないです。ある患者さんの診療をしていても、別の患者さんの情報がその間に入ってきて、早く一定の対応をしないといけないということがよくあります。「後にしてください」と言えない場面が多々あります。
一方で、どうしてもその場で全て終わらせることができないので、職場に帰ってからやらないといけないようなタスクも発生することが多いです。
次回は、怒っているとエラーが起きやすいという具体例を提示したいと思います。