呼吸をしています?というパワークエスチョン ー患者さんの家族から意識がないと連絡があった場合ー
- 所長のひとりごと
ケースファイル編
「意識がないと連絡があった場合」
ある昼前、診療所に電話がかかってきました。
「あのー、Kですけど、うちの母が3日間便が出てなくて下剤を飲んだんです。便はさっき多量に出たんですが、その後意識がないんです。」
F1「えっ?」
さあ、どうしますか?
F1「それは急に意識がなくなったんだから、ここに電話している場合じゃないでしょ。早く救急車呼ばなきゃ」
F2「でもこの患者さん、もう蘇生処置を望まないって決めてる人かも。そうだと救急車は呼ばない方がいいんじゃないですか」
F3「とりあえず、ドクターに連絡しないと」
この患者さん、Kさんは91歳女性。脳梗塞の既往があって、ベッド上でほぼ過ごしていますが、全介助で車椅子には乗れます。食事は全介助で食べています。月に1回、訪問診療に行っていて、降圧剤と不整脈の薬を処方しています。普段は簡単な会話はできています。
医師は往診に出て、まだ帰ってきていませんでした。
さあ、どうしましょう?
F1「ドクターもまだ帰ってきていないし、急ぎだから救急車を呼んでもらいましょう」
F2「まず、看護師が行くことにしましょうか?」
そこへちょうど、医師が診療所に帰ってきました。
D[え、Kさんが。分かりました。すぐ電話を代わります。
D[もしもし、Kさん。お母さん、意識がないんですか? はい、はい、呼吸はしていますか?」
「え、そりゃ、してると思います。はい、はい、してます。薄ら目を開けています。」
D「分かりました。では、今から往診に行きます。
もし、呼吸をしてなかったら、胸の真ん中を押してください」。
「いや、先生、そんなこと言われたらびっくりしますよ。待ってますので来てください」
10分後、患者さん宅に着きました。
既に患者さんは開眼して会話ができるようになっていました。
血圧100/60、脈拍60 SpO2 96%
呼吸回数14回 体温36.2度でした。
「便が多量に出た後、返事をしなくなったんでびっくりして電話しました。先生に呼吸していますか?って言われから、ドキッとしました。大丈夫ですよね」
Dおそらく、便が多量に出た際に血圧が下がったんでしょうね。水分は摂れますか?大丈夫そうですね。
じゃー、様子をみましょう。
ここで、この「呼吸はしていますか?」というのは、パワークエスチョンです。
1つの質問で、一気に状態の把握に進もうという問いかけです。
この患者さんの家族は、患者さんの意識がないと電話かけてきたけれど、割にゆったりした口調でした。
その様子と経過から、私は迷走神経反射による血圧低下を一番あり得る病態として考えましたが、
心肺停止ではないということを確認しなければなりませんでした。
そこで、呼吸はしていますか?という問いをかけたのです。
患者さんの家族が、びっくりして、それはしていますよ、と言うのを聞いて、往診に行くまで待ってもらっていいケースだと判断しました。
これは、消防庁が定めている「口頭指導要領」に準じてのものです。
「口頭指導要領」は市民が119番で消防本部に通報があった時に、本部から市民に伝える内容について定めているものです。
意識がなくて、かつ呼吸をしているどうかがはっきりしていなければ、救急車を向かわせつつ、市民に心肺蘇生を行ってもらうためのものです。
診療所に電話がかかってきた時も、特に医師が居ないときは、この対応が有効だと考えました。